5月21日(火)に開催した複業先生ナイトVol.2。今回はTeach For Japanとのコラボ企画で「教員の多様なキャリア形成のあり方」をテーマにゲストの二人にお話していただきました。
後半は「オランダの教員養成制度とこれからの日本の教員とキャリア」についてお話していただきました。金澤さんが現地で目の当たりにしたオランダの教育はどのようなものだったのでしょうか。
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プロフィール

金澤克宏(オランダ在住フリーライター) 1986年東京生まれ、専修大学文学部卒。 大学卒業後、5年間㈱エイチ・アイ・エスに務め、法人営業、上海支店赴任を経験する。その後、教育に携わりたいという思いから、退職し教員免許(中高社会科)を取得。 2015年から、Teach For Japan第3期フェローとして、福岡県の公立小学校に赴任し、3年間小学校教員として勤務する。 マルチプルインテリジェンスやイエナプランを取り入れた学級作り、授業作りに日々取り組む中で、「どんな大人が子どもと一緒に学ぶか」の大切さを痛感。 2018年春よりオランダに移住し起業。一斉画一ではない学びや学校の在り方を勉強中。 毎日Twitterでオランダの教育ニュースを発信! →https://twitter.com/onkochishin0111

池田由紀(Teach For Japan 選考・研修担当) 1987年東京生まれ。 早稲田大学教育学部卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社し物流・用船事業に従事。2013年5月、教員免許取得のため同社退職後、文部科学省非常勤職員や教育系NPOでの非常勤職員などを務めながら通信制大学にて教員免許を取得。 2015年4月より認定NPO法人Teach For Japanの第3期フェローとして奈良市内の公立小学校に赴任。 教室では「子どもたちと社会、世界を繋ぐ」を軸にした実践を行い、地域では子どもたちとダンスクラブを立ち上げたり、映画上映イベントや教育関係者が交流できる場づくり・ワークショップの企画をしたりと、学校内外で様々な活動に取り組んだ。 2018年4月より拠点を東京に移し、私立学校教員とTeach For Japan非常勤スタッフのパラレルワークを経て、2020年4月より現職。 以前の特集記事はこちら→https://an-life.jp/article/650
目次
オランダの学校教育とワークシェアリング
金澤:日本もそうですが、オランダの喫緊の課題は教員の不足です。2030年には小学校、中学校、特別支援学校これらの義務教育の学校において約1万人の教員が不足すると予測されているほど、オランダの教員不足問題は深刻です。オランダは”ワークシェアリングが発達した福祉国家”という側面で語られることが多いですが、学校でもワークシェアリングは進んでいます。
初等教育においては教員の52%がパートタイムの働き方をしています。この傾向は教育業界だけではなく、どの業界でもパートタイムでの働き方が浸透しています。また、保護者を含めたさまざまな人が学校現場に関わっているので人種や宗教も含めて多様な背景がある中でお互いの理解を深めていくというメリットがあるように思います。
オランダ特有の問題
金澤:オランダは人口のおよそ4分の1が移民の国です。移民は言語、宗教、文化的背景などの違いがあり、それによって教育に格差が生まれることがあります。オランダは移民に寛容な国として認識されていましたが、2000年代初頭からは移民を排除する方向に進んでいます。今は5年以上オランダに滞在する移民は必ず「市民化テスト」を受けなければいけません。このテストは難易度が高く、言語分野ではオランダ語の技能を6つ問われ、オランダの文化的な問題も出題されます。このテストに合格しなければ移民として受けいれてもらえないようになっています。
ワークシェアリングが進んでいる一方で、加速する教員不足
オランダで教員が不足しているワケ
金澤:教員という職業の人気がないのはオランダも日本も一緒です。その理由は大きく分けて3つで、これは日本にもいえるところがあると思います。一つ目は労働時間が長いこと、二つ目は低賃金で、労働に見合った対価ではないこと、三つ目はキャリアの見通しがないことです。
二つ目については、オランダの教員の給与はフルタイムで働く人の給与水準ではありますが、社会から教員に求められている仕事を考慮するともっと給与は上がるべきだという要求があります。直近1年間ではオランダ全土で教員のストライキが3度起こりました。
三つ目については特に30代以下の教員に顕著にみられます。教員になると”教員”というキャリアのはしごを登るしかなく、教員以外のキャリアに進もうとした場合、その登ってきたはしごを一旦降りて、また一からキャリアを積み上げていかなければならない、いわゆるキャリアのパラレル展開ができないということがあります。私も教員をしていたときに日本でも似たようなことを感じることがありました。フルタイムの教員から転職するときは相当な覚悟がいるように感じます。
オランダの教員不足への対策
「外部人材の教員養成〜zij-instromer〜」
オランダの教員不足の課題に対する新しい取り組みとして「zij-instromer」という制度があります。直訳するとオランダ語で「横から流入してくる」という意味です。2000年ごろから始まった制度で、最近では初等教育でよく活用されています。国が助成金を出して、教育以外の分野で働いていた人に学校で教員として授業をしてもらいながら、論理的な教員養成も同時に習得するし、2年間の中で能力試験に合格することで教員免許を付与するというものです。
新しい制度なので明確なメリットや結果はまだ出ていませんが、学校チームに多様性をもたらすことが報告されています。一方で教員の専門性は、ビジネススキルとは違っていることを明示しており、受け入れる側の学校が、きちんと教員を育てる環境を整えていることも重要とされています。そのためOJT制度や自治体からのアドバイザー、教員養成の先生など、国と自治体と学校がみんなで教員(zij-instromer)を育てていこうとしています。
この制度に申請する人の属性としては、全体のおよそ75%が20代から30代前半で占めています。申請の資格として高等教育を修了している必要があり、その専門も教育だけでなく、行動、社会、芸術、言語、文化、経済、技術、自然、法律などさまざまです。
日本の教員養成の課題
池田 Teach For Japanは赴任前研修をしていただいた方を私たちと連携している教育委員会にご紹介していて、フェロー(Teach For Japanの赴任前研修を受けた人)は教育委員会が発行する期限つきの免許で教員をしています。ただ現状免許の更新制度はないので、免許の有効期限が切れたあとも教員としてのキャリアを歩む場合はご自身で資格認定試験を受けて免許をとっていただく必要があります。一方でグローバルネットワークのTeach For Allの他の国、たとえばマレーシア(Teach For Malaysia)は国と連携して、Teach For Malaysiaで教員を2年間すると免許が発行される取り組みをしています。
これからの日本の教員とキャリア
池田:教員を経験して感じたことは教員の仕事は本当にクリエイティブだということです。様々なスキルや能力に加えて、子どもや保護者、地域の方、同僚の先生や教育委員会などあらゆるニーズがある中で、それぞれと関係構築をしながらバランスをとって何をしていくのかを判断する、とてもクリエイティブな仕事だと思っています。
ただ、そんなクリエイティブな仕事を言語化して、どんな仕事にどんな価値があるというこいとをこれまではなかなか表現できていなかったように思います。教員の経験から得たスキルや能力は他の仕事にも置き換えられると思います。ただ学校の先生はそうは思っていなくて「もう自分は民間に転職できないんだ」と思い込んでいる方が多いようです。
以前、ある先生に「民間から教員になったからすごく羨ましい、自分ははじめから教員になったからもう民間に転職できないよ」と言われたのですが、私は全くそんなことはないと思っています。Teach For Japanのプログラムに参加した方の中にはそのまま教員になった方もいれば、Teach For Japanでの教員としての経験を経て違うキャリアに進まれる方もたくさんいらっしゃいます。これは新卒でも同じです。既卒で企業に入って、それから教員になったから民間に戻れるというわけではなく、新卒で教員を経てから転職される方もたくさんいらっしゃいます。
私たちのプログラムでは現場に出る前に教員免許の有無にかかわらず皆さんに9ヶ月間の”赴任前研修”を受けてもらっています。その中でフェローカルテという成長指標があり、月1回の面談で現場に出るまでに求められるスキルに対して自分が今どの位置にいるのかを確認してフェローはスキルアップを目指しています。
指標を見ていて思うことは、授業力や授業をどう評価するか、学校の特有の文化に対する理解度、教育に関する法規や教育委員会のシステムに対する理解度は教員特有だと思います。ただ、それ以外についての課題発見力や課題解決力、自己認識力などについてはどんな仕事でも共通すると思っています。そういう意味ではスキルが見える化されていることで、自分のスキルを振り返ることができるようになると思います。
教員のやっていることにどんな価値があるのかということの言語化をもっとしていかなければならないと思っています。Teach For Japanとしては教員のスキルや能力を表現したり、発信したりしていく必要があると思っています。それによって教育現場に入ろうと思う人が増えていくと思いますし、むしろ、そうしていかないと教育は変わっていかないと思っています。
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学校教育の外部人材活用が進むなか、外部人材を教員として育成するオランダの仕組みはとても先進的です。これからの日本の教員のキャリアが多様になることで子どもたちにも多様な選択肢が提供できるみらいの学校に期待です。
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▼Teach For Japan公式HP:https://teachforjapan.org/
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