「複業先生」では、普段は民間企業で働く人、起業した人、昔は先生を目指していた人などなど、様々なバックグラウンドを持った方々が先生として授業を行います。授業の実現までには、受け入れ側の学校の先生方にも企画や準備、当日の進行などで連携していただきます。
今回は、奈良女子大学附属中等教育学校にて行われた「複業先生」による授業の、受け入れを担当した二田先生にお話しを伺いました。
奈良女子大学附属中等教育学校の授業レポートはコチラ▼
教室の外で、生徒たちの主体性を育む
-今回の授業は、どのような位置づけで実現したのでしょうか。
(二田先生)昨年度の「総合的な探求の時間」の一環として行いました。私は「総合的な探求の時間」カリキュラムの組み立てを担当していたのですが、テーマを「Well-beingの追求」に設定しました。その理由は、OECD(経済協力開発機構)が発表している2030年のラーニングフレーム(※)に重要な観点として「Well-being」というものが掲げられていたからです。
これからの時代を生きるにあたっては個人と集団、それぞれがどのようにWell-beingを実現するできるか、という視点が欠かせないので、この授業で取り扱ってみることにしました。
このテーマのもとで大事にしていたのは生徒自身が「なんらかの現実を動かす」ということです。ただ「机の上でのお勉強」で終わるのではなく、実際の行動につながる授業になるように、設計していきました。
※・・・OECD (経済協力開発機構)が進める、Future of Education and Skills 2030というプロジェクトにおいて2030年までに子ども達に特に求められるコンピテンシーを育成するために検討されているカリキュラムや教授、学習評価などの枠組み
-「現実を動かす」というテーマのもと、生徒さんはどのような活動に取り組みましたか。
具体例を挙げると、県内の児童養護施設を全て訪問して話を聞いたり、関心がある分野のNPO法人に連絡をとって活動に参画したり、食用コオロギの取り組みにトライしたり、車いす目線で自分の街を回ってみたり…。色々あります。
実際に体験することで、生徒たちの学びはより主体的になりますし、深いものになっていきます。
-実に様々な種類の行動が生まれたんですね。学校の授業を使って実際の社会とのつながりを自分で作っていくというのは、とても貴重な経験だと思います。その中で「複業先生」による授業はどのような役割を担ったのでしょうか。
今回「複業先生」を利用したのは、「学校の外部の目」を授業の中に取り入れるためでした。カリキュラム自体は私が設計するものの、実際の授業に外部の方が関わることで、生徒が学校の外の社会で何か行動をするときに役立つ学びを得られると思います。そういう意味で「現実を動かす」という目的のためには外部の方に授業に関与してもらうことが必須だと考えています。

教室の外の「本物」の声を聞くことの大切さ
-授業を担当された田中さんには、事前にどのような要望を伝えられたんですか。
カリキュラムの前提はお話したうえで、あまり細かなオーダーは出さず、ざっくりとご自身の体験や活動、どんなことに関心を寄せているのかをお話いただくようにお伝えしました。
私が外部講師の方々によく言うのは「学校の先生は偽物」であるということです。大人としての社会経験はあっても、実際に企業で働いた経験のない人とある人で伝えられることは全く異なります。その点、企業で働いたり、自分で事業をしたりしている人の話は生徒からしてもリアルな話として聞くことができると思います。そのため、「本物」としてのご自身の話をしてもらえれば、それがとてもありがたいです。
-今回の「複業先生」を利用するにあたって難しかった点はありますか。
オンラインだった点でしょうか。実際に顔を突き合わせるのとは双方向のコミュニケーションのやりやすさが全く違うと感じています。
-カメラを2台設定するなど、工夫もされていましたね。
それでもやはり、生徒の意識としてはテレビ画面を見ているような感覚があるのでは、と思いました。実際に教室にお越しになっていれば、生徒の活動へのフィードバック等もいただけたかも…と思います。
ただ、オンラインとはいえ生徒は真剣に話を聞いていた印象でした。生徒の反応は非常に素直なので、興味をもっているかいないかというのは一目でわかってしまうんですよ。その点、田中さんの授業は最初から最後まで集中力を切らさずに聞いていましたし、授業後も教室に残った生徒たちが1時間ほど質問をしていました。
-「複業先生」は、他の先生や学校へもおすすめできそうですか?
おすすめはしたいです。ただ、各学校や受け入れ側の先生によって、ニーズは様々あると思います。例えば今回私が「複業先生」を利用する際には、「女性の視点でキャリアを考えたり、自分に対する肯定感を高めながら壁を突破してきたような経験のある方に来てもらいたい」という相談をして、コーディネーターの方に適切な方をご提案いただきました。
このような授業内容とのマッチングや、ワークショップ形式等の授業の進め方という面でも、個々に合わせた授業を展開してもらえるのであれば、利用したい学校は多いと思いますね。
◇◇◇
「教室の中での学習に閉じず、実際に社会にでたときにいろんな事態に対応し、自分で問いを見つけて行動していく力を身に着けてほしい」という二田先生。インタビューででも「行動すること」に重きを置いていらっしゃる一貫した姿勢が伝わってきました。
「複業先生」には、自分自身の行動により、やりたいことや仕事を切り拓いてきた方々が多数登録しています。どんな先生がいるのか気になる方はぜひ登録をお願いします。