元私立高校教諭が語る『“複業先生”の意味〜学校教育における外部人材活用と学校のミライ〜

先月、文部科学省が学校教育における外部人材の活用促進事業の公募について発表しました。2020年度から始まる新たな学習指導要領において、「社会に開かれた教育課程」を掲げている中で注目されていることの一つが”学校教育における外部人材活用”です。今回はこの”学校教育における外部人材活用”について、渋谷教育学園渋谷中学高等学校で専任教員を務め、現在は台湾のEdTechスタートアップにてマーケティングを担当されているコーニッグ菅家万里江氏にお話をお伺いしました。

民間人材・フリーランス人材が複業で学校の仕事を探せる、学校教育特化型複業探しプラットフォーム”複業先生”がこれからの学校教育にどんな意味があるのかについてお話をしていただきました。

【プロフィール】
コーニッグ菅家万里江
慶應義塾大学大学院文学研究科英文学専攻卒業。大学院時代に非常勤をしていた渋谷教育学園渋谷中学高等学校で、教師の面白さとやりがいを再認識し、内定の決まっていたコンサルティングファームを辞退して同校の専任教員に。英語科教員・国際部分掌・模擬国連部顧問を担当する。2014年には、文科省が選定するスーパーグローバルハイスクール(SGH)プロジェクトに、同校のコアメンバーとして参画。プロジェクト全体のデザインから、カリキュラムの企画・立案・運営を担当し、同校のSGHプロジェクトは、全国で先進的な取組をしているトップ4校の1つに選ばれる。また、ITの活用にも関心を持ち、先生のITリテラシー向上に寄与するため、Life is Tech!でのアドバイザリーも務めた。現在は、台湾のEdTechスタートアップにて、マーケティングを担当。

今、複業先生が必要とされているワケ

今、学校にはたくさんのことが求められています。基礎学力をつけるだけではなく、応用力や社会に出てから必要とされる力。他にも子どもたちに社会のことについて知ってもらえる機会や大人とのつながりをつくる機会など、”こんな学校だったらいいな”という要素が今はそれら全てが学校に求められています。しかし”先生”が持っている時間はそもそも限られています。授業の準備や生徒との面談、部活動の指導などがあり、その中で、今求められていること全てを学校の先生だけで実現することはそもそも不可能に近い状況です。 

今の状況で”学校教育に求められること”に応えようとすると、十分な準備やクオリティの確保ができないまま、活動を行うことになり、先生にとっても、生徒にとってもwin-winなものとは言い難いです。

一方で、社会に出てから学校や教育の大切さを感じて、学校や教育に関わりたいという人がたくさんいます。しかし、そういった方がどのように学校にアプローチしていいか分からないという問題があります。社会のことについての知識や専門的な知識を持っていて、かつ学校や教育に対する意欲がある人材が外部にいるにもかかわらず、学校とつなぐ方法がないことで、そのリソースを活用できていないというのが今の現状です。複業先生のお話を聞いた時に思ったのは学校と社会の間でリソースを循環する機能が複業先生にあるのではないかということです。 

学校教育における外部人材の活用の課題

大きく分けて4つの課題があると思います。一つは、「業務をアウトソーシングする」という発想が学校に浸透していない点です。特に授業に関しては「教員が行うもの」という固定観念があるようで、全ての業務を自校内で行おうとする傾向があります。しかし、先生によって得意不得意はありますし、外部の人を頼った方が、より深い知見や面白いアイディアを持っているケースもあります。今後、ますます学校に求められることが増えていく中で、「学校が外部リソースを活用しながら、質の高い教育作りをしていく」という発想がますます不可欠になっていくと思います。

二つ目は”タスクが増えることへの懸念”です。外部の人と授業作りをしていくには、打ち合わせやメールのやりとりなど、細々とした業務が必要になります。すでに先生方は、毎日膨大な量のタスクを抱えていますから、そうしたやりとりで、日々の業務が増えることへの不安があるのではないかと思います。外部人材の活用は、長期に見れば手間や時間の節約につながりますから、まずはサービスの提供者が間に入って、こうした先生方の心理的障壁を取り除いてあげることが必要になってくると思います。

三つ目は先生が授業に対する責任をとれないという不安だと思います。見ず知らずの人に頼むことに対する恐怖心があり、外部人材を活用した教育によって質が担保されるのかということへの懸念があると思います。こうした不安を取り除くためにも、質が高く、信頼できる人材が集まるサービスであることが必要になりますよね。「複業先生」では、経歴やこれまでの活躍など、わかりやすい形で質の担保がされているので、先生も安心して使っていただけると思います。

四つ目は「前年度に行ったプログラムを踏襲する」というのが、暗黙の了解になっている点です。すでに、その学校でキャリア教育や講演会などのプログラムを提供している場合、質の向上をゼロベースで検討することなく、前年度と全く同じやり方でプログラムが行われることがほとんどです。外部人材を投入することで、「前の学校ではこんな風にやってみたので、今年はこんなことにトライしてみたらどうですか?」と、新しい切り口でプログラムを考え直す機会につながるのではないかと考えています。

学校では教えてくれない〇〇の落とし穴

テレビ番組やブログで見かける「学校では教えてくれない〇〇」というフレーズがありますが、このバズワードについても少し疑問があります。以前は学校では扱えないトピックとしてのポジティブなイメージのフレーズでしたが、最近は”学校が教えてくれない”=”学校は大事なことを教えない”というイメージを持たれるような意味合いで使われることもあり、寂しいなと思います。

学校は本来もっと”ワクワクする場”だと思っています。子どもたちが毎日集まる場所だからこそ、もっと楽しく、社会の新しい面を知ることができて、知的好奇心をくすぐられるような授業を提供したい。むしろ、従来の学校がしてこなかった授業こそ、学校内に持ち込みたい。そうした理想を実現するために、外部人材の活用が、よりいっそう大切になってくると思います。

外部人材活用にむけて学校の先生が理解するべきこと

まず、先生方に取り組んでいただきたいのは、「全てのタスクを自分たちでこなさなければいけない」というマインドセットから抜け出すことです。学校の先生と、外部人材のそれぞれに違う役割があることを認識した上で、「このタスクは誰がやるのが最適か」を考える姿勢が必要になると思います。
もちろん、予算の関係で何から何までアウトソーシングすることは無理かもしれません。しかし、授業・生徒指導・部活動など、先生が担当しなければならないことはたくさんあります。私も現役時代は、業務が多すぎて、常にオーバーワーク状態だったという苦い経験があります(笑)
先生方が「自分でやらないこと」を決めて、適任者に仕事を振ることで、先生の負担も減らせ、教育の質のさらなる向上につなげることができると信じています。

まだよく知らない外部人材を、いきなり一学期・一年単位で雇う、というのはなかなかハードルが高いかと思いますので、まずは単発で「複業先生」を活用してみるのはいかがでしょうか。例えば急に先生が足りなくなったときにその授業だけ活用してみるというのもいいかと思います。継続的な活用よりもまずは試してみてどんな結果が得られるかを体験できることが大事です。外部人材の活用に興味のある先生方は、どんな「複業先生」がいるのか問合せをしてみるところから、始めてみてもいいのではないでしょうか。

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複業先生はじめ、学校教育における外部人材の活用がすすんでいくためにも、学校の先生の業務の負担をなるべく増やすことなく、外部人材を活用していくことで学校教育がアップデートされるようにしていく必要があります。さまざまな経験をもった外部人材が学校にかかわることで子どもたちの未来が広がる機会にしていきたいです。

取材日:2020年6月1日

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